「全く知らない人です。好みのタイプの女性だと思って後をつけた」 警察の取り調べで驚きの供述をした男。
ことし8月、神戸市で24歳の女性を付け回し、殺害した疑いで逮捕された谷本将志容疑者(36)です。 過去に2度「ストーカー事件」で有罪判決を受けていた谷本容疑者。 今回の事件が供述通りだとしたら、浮かび上がる共通点が…「面識のない女性を狙った犯行」。 何を思いながら、見ず知らずの女性を標的にしていたのか。 加害者側の心理をツイセキ!する。
■「なぜ見ず知らずの人に殺意」と被害者の知人
【記者リポート】「事件から1カ月以上がたちましたが、現場マンションにはこのようにたくさんの花や飲み物が供えられています」 ことし8月、神戸市のマンションで、24歳の女性が刺され、死亡した事件。 1カ月あまりがたち、被害者の知人が今の胸の内を語りました。 【被害者の仕事の関係者】「本当に志半ばっていう言葉が当てはまってしまうと、もうつらいですけど、振り返れば、やっぱりいい子やったなって言うしかないです。 なぜ見ず知らずの人に対して、殺意が浮かんだのかということが分からない。結末としては最悪の結末ですよね」
■過去にも似たような異常な行為を繰り返していた
殺人の疑いで逮捕された谷本将志容疑者(36)。 街で偶然見かけただけの女性をターゲットとしたのか? 取材を進めると、過去にも似たような異常な行為を繰り返していたことが分かりました。 2020年、谷本容疑者は神戸市内で4度にわたり、女性の後ろを付け回し、ストーカー規制法違反の罪などで有罪判決。女性とは、面識がありませんでした。 そして、3年前にも神戸市内で5カ月にわたり女性を付け回し、最終的には自宅に侵入。女性の首を絞めてケガをさせた罪で有罪判決。この女性とも、面識はなし。 当時の谷本容疑者について知るために、取材班は3年前の事件に関わった捜査関係者に話を聞きました。 【3年前の事件の捜査関係者】「谷本は普通の奴だった。見た目も別におかしなところはないし、会話も通じる。女性に対する執着がすごかったんだろうけど、取り調べからはそんな様子は感じられなかった」
■相談が“増えた”「あいつの考えが俺と同じだ」
なぜ執拗に「面識のない」女性を狙うのか? その心理を探るべく取材班が向かったのは、横浜市にある精神科のクリニック。 神戸の事件以降、相談に来る患者が“増えた”といいます。 【大石クリニック 大石雅之院長】「先生、『俺、大丈夫と思っていたけど、神戸の事件を見たら俺とそっくりだと分かった』。『あいつ(谷本容疑者)の考えが俺と同じだ』と。急に(タイプの女性を)見つけて追いかけといった行動が『まさに俺とそっくりで、びっくりした。俺とうり二つだ』という人(患者)が何人も来た」 大石院長のもとにはストーカーをやめられない人や、前科のある人が相談に来ます。 その多くは、「面識のある相手」に対する行為で、谷本容疑者のように「面識のない相手」をターゲットにする人は少数。 それがゆえに「特性があまり知られていない」と大石院長は指摘します。 【大石クリニック 大石雅之院長】「一般的にこの(面識がない)タイプは、病気を持っていることがある。性嗜好障害という病気を持っている。この病気は繰り返す(のが特徴)」 性嗜好障害とは、性的行動のコントロールができなくなり、社会生活が破綻したり、犯罪へと結びついたりする症状のこと。性依存症とも呼ばれています。 「面識のない相手」を標的にする人は、犯罪行為を繰り返す「性依存症と診断されるケースが多い」のだそうです。 大石院長は谷本容疑者が3年前の事件で、面識のない女性を付け回したあげく、「付き合ってほしい」と1時間言い続けたことなどから、性依存症の可能性が高いとみています。 3年前の事件の判決では… 【判決文(安西二郎裁判官)】「再犯が強く危惧されると言わざるを得ない」 しかし、治療などを促す「保護観察」はつけられませんでした。
■「ひたすら自分の欲に突き動かされている」と性依存症で犯罪を犯した当事者
性依存症で犯罪を犯す当事者の心理はどのようなものなのか。 取材に応じてくれたのは、過去に2度、盗撮事件を起こし有罪判決を受け、執行猶予中のユウタさん(仮名)。 【盗撮で有罪判決 ユウタさん(仮名・25歳)】「もうひたすら自分の欲に突き動かされているみたいな。悪いことをやっている自覚も、抜け落ちちゃっている」 初めて事件を起こしたときは、商業施設でたまたま商品を眺めていた女性を見て、横に座り込み、スカートの中にスマホを差し入れたといいます。 面識のない女性に性的な衝動を持ち、行為に至る。インタビューで見えてきたのは、異様な思考の歪みです。 【盗撮で有罪判決 ユウタさん(仮名・25歳)】「盗撮をするというのは、相手に気づかれないことの方が多いわけで、相手が気づいてないんだったら、別にやってもいいだろうみたいな。もちろん悪いことなんですけれども、それを正当化してしまうような。衝動的に多分やってしまうっていうのは、ストーカーも盗撮もあまり変わらない」 ユウタさんは事件後、専門機関で性依存症と診断され、治療を続けています。
■加害者の身勝手な解釈「自分は後のことは知らない」
治療は再犯防止へとつながるのでしょうか。 取材班が訪れたのは、性依存症患者を対象にグループワークを通して、治療を行うクリニック。 【ライフサポートクリニック 山下悠毅院長】「痴漢でも、盗撮でも、ストーカーでも、結局あなたは何がしたかったんですか?」 加害行為をする原因と、引き金を理解することで、再犯を防ぐことができるといいます。 【ライフサポートクリニック 山下悠毅院長】「なぜ再犯率が高いかというと、『やっちゃいけないからやりたい』。『次やったら実刑ですよ』と言われたら、『じゃあやりたい』となってしまう。 登山に例えたら、『あのルートだけは、みんな失敗して滑落して、命を落としてるから駄目だよ』と言われたら、『じゃあ俺、挑戦したい』となる」 グループワークに通うアキラさん(仮名)。 過去に家や学校に侵入して、制服の窃盗を繰り返し、4回刑務所に入りました。 【制服窃盗で4回服役 アキラさん(仮名・50)】「制服がないと自分が落ち着かないとか、安心感が得られない。成功しちゃうと止まらなくなるんですね」 【記者】「制服を盗まれた人の気持ちは気にならなかった?」 【制服窃盗で4回服役 アキラさん(仮名・50)】「困っただろうけど、きっと学校側で処理してくれるだろうと。すごい自分本位な、勝手な解釈になるんですけど、自分は後のことは知らない」 最後に事件を起こした後、治療に取り組み、自分が性依存症だと理解するようになりました。 【制服窃盗で4回服役 アキラさん(仮名・50)】「自分を知ることだと僕は思います。どういう時に問題行動とか、犯罪に引っ張られてしまうのか。 治療のひとつに日記を書くことがあって、日記を日々つけていくことで、客観的に自分の行動とか、癖とか感情とか振り返って、こういうところが危ないんじゃないかっていう気づきも得られたりするんですよね」 今でもまれに、制服を盗みたい欲求が生まれるというアキラさん。クリニックに通うことで、踏みとどまれているといいます。
■「常識があったら…」と悔しさをにじませる精神科医
谷本容疑者は女性を刺したことは認めていますが、殺意については否認していて、動機は明らかになっていません。 悲劇を防ぐことはできなかったのか。 依存症治療に取り組む大石院長は取材の最後、悔しさをにじませました。 【大石クリニック 大石雅之院長】「一番問題なのは、最初に捕まったときに治療につながるかどうか。 裁判官や検事に、ストーカーの中に一定数、(性的衝動行動を)繰り返す特殊なタイプがある、これはまずい、という常識があったら、もっといろいろな刑を求めたかもしれない」 (関西テレビ「newsランナー」2025年10月1日放送)